「ラブ・ストーリー」は2001年12月19日に初版が発行された。
星野さんの未発表の野生動物の写真、グリズリー・アザラシ・シロクマ・リス・オオカミ・ツノメドリなどなど・・・と、すでに刊行された本の中の印象的な言葉を添えて。ハッとするほど美しいアラスカの秋の雄大な風景やワイルドクロッカスの花、雪のマッキンレーの写真、霜の降りた色とりどりの葉っぱ・・・。
「1年を経て、同じ親子グマに出会う。彼らが過ごした1年と、自分が過ごしたこの1年が重なった。長い冬の日々、ストーブの火をおこし、本を読み、スキーで森を歩き、また、オーロラを見上げていたその時、どこかの山の塒で、この三頭のクマはひっそりと同じ冬を越していた。あたりまえのことなのに、初めて気付いたような想いがした。すべてのものに平等に、同じ時が流れている。こんなふうに感じるのはなぜだろう。」
クマも自分も同じ時を生きている。あたりまえのことだが、つい忘れそうになる。カレンダーや時間で区切られた生活と何もない緩やかな流れの時間。あるいはもっと壮大な地球の成り立ちの時間や宇宙の変遷の時間・・・。自分の命の単位ではないもっと悠久の時の流れ・・・。クマとは同じ命の長さの時間を共有しているのだ・・・。
「たとえ親であっても、子どもの心の痛みさえ
本当に分かち合うことはできないのではないか。
ただひとつできることは、
いつまでも見守ってあげるということだけ。
その限界を知った時、
なぜだかたまらなく子どもが愛おしくなってくる。」
苦しんでいる心を慰めるすべはない。できることはただ、見守ること、ひっそりとそばにいること、そして祈ること。人は自分の思うようにはならない、それがたとえ自分の子どもであっても・・・。苦しむ心は自分で答えを見つけて、自分なりに解決の方法を探って、そして自分で立ち直って行くしかないのかもしれない・・・。それには充分な時間が必要なのかもしれない。
「人と人とのつながりのように、長い歳月を共に過ごすということは、動かしがたいひとつの力を持つものであり、たとえそれが小さな関わりであれ、何かといとおしさが湧いてくるものです。そのいとおしさとは、相手に対してであり、また、過ごしてしまった歳月へのいたわりなのでしょう。少しずつその相手が変わり始め、さまざまな問題が生まれつつも、出来る限り、一緒にいて見届けたいと思うものです。今は、そんな気持ちでアラスカという土地を見つめているような気がします。」
「ラブ・ストーリー」に入っている写真はどれもとってもステキな写真ばかり。雪をいただくマッキンレーの麓の紅葉、初めて霜の降った朝の草紅葉、夕暮れて行く前の残りの夕焼けが残る空と川を背にシルエットで立つ人とたき火の明かり・・・、全てが印象的だ。
一番心を打つのは北極グマ2頭の抱き合っている写真・・・。まるで人間が二人抱擁しあっているかのような何とも言えないいい写真だ。笑っているような北極グマの顔は、穏やかな満たされた顔に見える。「ラブ・ストーリー」というこの本の題名が納得できる。クマも恋をするのだろうか・・・。まるでそんなことがありそうな気がする。そんなことがありそうなではなくて、そんなことがあるとこの写真は語っている。
とっておきの1枚は、雪の上に仰向けに寝ている北極グマの胸に、顔を埋めるもう1頭のクマ。お互いに目をつむっている。寝ているクマはもう1頭のクマの頭に手を置いている。お互いのぬくもりが伝わって、心臓の鼓動が聞こえてくるような気がする。お互いを大切に思う気持ちが伝わってくる。人間も動物も変わらないのだろうか・・・。人間も動物であるというそんな当たり前のことを思い出させてくれる・・・。人間のように言葉は持たないが、言葉にすれば同じような感情や想いが動物の心の中にもきっと存在するのだろう。そんな確信を持つ。こんなに表情の豊かな動物写真を知らない。
やっぱり星野さんの写真はスゴイ。どんな想いで星野さんはこの写真を撮ったのだろうか・・・。星野さんはこの写真にどんな文章を書きたかったのだろう。とっても知りたい気がする・・・(^^;)。
2002.9.18